もともと飲食の世界からやってきたので何もかも初めての仕事でした。お客様のために何か作るということは食べ物と同じなんですが、飲食業の場合、失敗しても作り直せば何とかなります。けれど、ここの仕事では、そうはいかないんです。何せ、世界にひとつだけの完全なオーダー品なので、加工の失敗=材料の無駄と納期を遅らせる原因になるので、手始めに練習という仕事はなく全てが本番。だから指導は厳しかったです。仕上がりに対してかなり高いレベルの品質になるまで褒めてもらえませんでした。師匠の合格ラインは、お客様が求める以上の精度に仕上げることでしたから。それが2年ほど続きました。でも辞めようと思ったことは一度もないんです。なぜなら、厳しくされた以上に優しくしてもらったからです。仕事を離れると師匠は普通の優しいおじいちゃんになりますし、厳しい指導をされているのを仲間が知っていてくれて、慰めてくれたり労ってくれたりで本当に優しくてね。師匠の最後の弟子だということなので、それに恥じないように、毎日金属と向き合っています。まだまだですが、少しずつ旋盤もいうことを聞いてくれているような気がしています。